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燈明守の娘

 むかし、山崎橋の近くに燈明守の父娘が住んでいました。母親は早くに亡くなっていましたが、娘は美しく働き者でした。父親は毎夜、橋のたもと、向こうとこちらにある燈明台に灯をつけることが仕事でした。

 ある年、その父親が寄る年波で、長い患いに伏せってしまいました。娘は父親の看病をしながら、毎晩欠かすことなく、燈明を守り続けました。
 そんな娘を、山崎の神官の息子と商人の息子が好きになりました。二人は娘の歓心を引こうと互いに競い合いましたが、娘はがんとして受け入れなかったのです。とうとう二人は、娘を憎らしく思うようになりました。

 ある夜、灯をつけ終わって娘が帰ろうとすると、向こう岸の灯が消えていました。慌てて橋を渡って火を点して振り向くと、今度は反対側の灯が消えてしまっていました。こちらを点ければあちらが消えと、娘は一晩中橋を往復しました。この夜から毎晩、せっかく点けた灯が消えるようになりました。娘は何度も橋を往き来して燈明を守り続けました。

 そうこうするうちに、父親の薬代を得るために、娘が燈明油を横流ししているという噂が流れました。灯を消したのも、噂を流したのもかの二人の男共のたくらみでした。

 娘は捕らえられてきびしく折檻されましたが、どんなに激しく責められても身に覚えがないと訴え続けました。しかしとうとう死罪になってしまいました。橋のたもとで首をはねられたのです。

 しばらくして、奇妙なことが起こるようになりました。山崎橋を人魂が往き来するというのです。人々は、無実の罪で殺されてしまった娘の魂だと囁き合っていました。それからすぐです、好奇心に駆られて彼の男二人が橋を見に出かけたところ、飛んできた生首に喉元を噛み切られて絶命しました。もちろんその生首は娘のものでした。

 それ以来、ぷっつりと人魂は出なくなったそうです。